ミツオ日記

自称詩人 熊野ミツオの日々

コメダで短歌をつくった話

 コメダ珈琲店に行った。最近のぼくはいちにちに千五百円以上つかわないというルールで生きている。コメダ珈琲店に行くとカフェオレのたっぷりサイズを頼むことが多い。そうすると五百七十円かかる。だから、スーパーでは九百三十円までしかつかえなかった。コーヒーとアイスクリームとお昼ごはんのお弁当を買った。

 きょうは晴れのち雨という予報だった。ヤフー天気予報を見ると夜から雨が降るということだった。十五時くらいにコメダ珈琲店への道を歩いていると、空がすこしずつ曇ってきていた。ぼくは季節では秋と冬が好きだった。とくに秋は光のかんじが好きだ。そろそろ秋が終わりそうだ。そうなると、陽射しは淡くなる。冬になると地上があかるいのは午前中だけだ。これから陽射しの少ない季節になるのだ。

 コメダ珈琲店に着いた。カフェオレのたっぷりサイズを注文した。周りの席にはおじさんがたくさんいた。ぼくの隣の席にはおじさんがひとりで座っていた。前方のテーブルにはおじさんのグループが二つあって、それぞれたのしそうにお喋りをしていた。ぼくは、おじさんたちの顔の皺や染みを見て、いつか自分も年を取るのだとおもった。

 店員の女の子がカフェオレを盆にのせて来た。ぼくはマグカップに入ったカフェオレを見た。女の子は胸の前に盆を持っていたので、女の子の胸も視界に入った。なんだか、胸を見ているみたいだなとおもって、後ろめたい気持ちになった。そのせいか、女の子がマグカップを置く動作がぎこちなくおもえた。胸を見たりしたからかもしれない、とおもったけれどわからない。気のせいかもしれない。

 しばらく経つと隣の席にひとりでいるおじさんが、五分に一回くらいのペースで咳込むのに気がついた。何かウイルスを移されるのではないかと不安な気持ちになった。きょうのぼくは運が悪い。それにしても、このご時世に、咳が出ているのに喫茶店に来るなんて非常識なひとだとおもった。こういうおじさんの悪口はぜひツイッターに書くべきだとおもった。ぼく自身はそうでもないけれど、無神経なおじさんの悪口を好んでツイートするひとは多い。ぼくもそれをやろうとおもった。

 ぼくは疲れをかんじていた。だから、コメダ珈琲店でリラックスしようとおもった。でも、考えてみると、こんな風にザワザワとした場所に来て、リラックスしようとするのは変なことだ。家にいればいいのに、とおもった。窓の外を見ると、木々の向こうに暗い空が見えた。空は青っぽい灰色だった。ぼくは短歌をつくることにした。

 コメダ珈琲店に来たときにすることは三つに分けられる。一つは秘密のノートに考えていることを書きだすこと。二つ目は本を読むこと。そして、三つ目は短歌をつくることだった。きょうは短歌をつくることにした。ぼくは短歌用のちいさなノートを取り出して、ページを開いた。そして、日付といまの時刻を書いた。時刻は十五時半だった。これから十六時半まで短歌をつくろう、とおもった。

 短歌をつくるのはめんどうくさいとおもうこともある。でも、ぼくは自分の短歌が好きなので、なるべくたくさんつくってそれを後で読み返してたのしみたいという気持ちがあった。とくに短歌は何首か集めてまとめて読み返すとたのしい。短歌をつくるのはパズルに似ている。ぼくはカフェオレをすこしずつ飲みながら、おまけの豆菓子をかじりながら、短歌を考えた。ぼくには才能がないので、一首短歌をつくるのに一時間かかる。

 ところで、最近、ぼくは詩と短歌の本を出す計画を進めている。こういうのをZINEと言うのだ、と夕方のニュースで見た。若者の間で流行っているらしい。ZINEとはMAGAZINE(マガジン)のZINEから来ている。ぼくの詩と短歌の本も洒落た言い方をすれば、ZINEということになる。タイトルは『光る犬』にする予定だ。表紙はツイッターで知り合った漫画家に頼むことにした。きっといい本になるだろう、という気がする。もう、原稿はできている。問題は通販の仕方だ。お互いに本名と住所を伏せて通販をするにはどうすればいいのか。

 自分は何をやっているのだろう、という気がしてきた。結局、短歌は一首しかできなかった。それは、次のような短歌だ。

 

自分でも自分はすこしおかしいと気がついているけど直らない

 

 すこし地味な短歌かもしれない。リズムもあまりよくない。でも、ぜんぜんダメというわけでもないとおもった。この短歌は、ぼくの若かった頃の思い出をもとにつくった。ぼくは若い頃はいまより頭がおかしかった。肥大化した自意識とプライドに悩まされていた。でも、おかしかったとはいえ、そういう自分をどこかで客観視している自分もいた。この短歌は、そういう感覚を書いたものだ。

 いま、ぼくはビートルズの『ラバー・ソウル』を聴きながら、この文章を書いている。最近の夜はビートルズをちいさな音量で流すことにはまっている。音量を抑えめにして古い洋楽を流すと、ゆったりとした気持ちになって、リラックスすることができる気がする。『ラバー・ソウル』にはたくさんの名曲が入っているけれど、なかでも『イン・マイ・ライフ』は名曲だとおもう。