知らないひと
きれいな朝にひとりで目覚める
きのうのことさえ何も覚えていない
ぼくは家を出て
電車で隣の街に行った
知らないひとに道を聞かれたけれど
何も答えられなかった
ぼくは笑い方を知らない
ぼくは自分で自分のことをよく知らない
それなのにぼくは働かなくてはいけない
本物の小鳥の鳴き声には喜びがある
ニセモノの小鳥の鳴き声は規則的だ
次の季節にはきっと会おうと約束している
生きている
空が青から水色に変わった
夜になって
ぼくは家に帰ることにした
掌が白く汚れていた
ぼくは罪を犯したのだろう
いまはただ早く家に帰りたい
もういちど水のなかで
呼吸をしたいと願っていた
夢のなかでも
ぼくはひとりだった
そこの曲がり角を曲がるまでは
ぼくは知らないひとだった