ミツオ日記

自称詩人 熊野ミツオの日々

永遠の午後は果物の匂いがした

こんな詩はたいした詩ではないんだよ こんな人生は たいした夢ではないんだよ ぼくは誰にも愛されなかった 季節だけが速足で通り過ぎて行く 誰にも愛されなかった日々は 魂に刻まれて傷のようになった ぼくの顔は皺に覆われていった 朝になってもなにもおも…

トラウマ

ひとはこわい生き物だった ぼくはひとの胸に抱かれて 寒い夜を眠ることもあった その身体から かすかな匂いがした 朝になると ひとは洗面所で 歯を磨き ウガイをする 外から平べったい光が射している ひとの顔に 作り笑いが生まれる瞬間を見ていた 顔がウニ…

ぼくは何も考えていない

ぼくは何も考えていない とぼくは言った 言葉の切れ端を探して バスの床を見ていた 窓の外の 青い風景が 急に水色に変わった 好きな女の名前から 植物のように 詩が生える そう 誰かが言ったように 愚かでなければ 恋なんかしない 彼女は いまもこの世界のど…

知らないひと

きれいな朝にひとりで目覚める きのうのことさえ何も覚えていない ぼくは家を出て 電車で隣の街に行った 知らないひとに道を聞かれたけれど 何も答えられなかった ぼくは笑い方を知らない ぼくは自分で自分のことをよく知らない それなのにぼくは働かなくて…

不安な日記

なぜ ぼくはひとりなのだろう ぼくが見ている自分自身と 誰かが見ているぼくだと どちらが本物のぼくなんだろう なぜ ぼくは あのひとを好きになってしまったのか なぜ 戦争はなくならないのだろう ひとは切ない気持ちを どこに捨ててくるのだろう ぼくたち…

夜更かし

睡眠薬を飲んで布団に入る テレビを点けてボンヤリとする 芸人たちの空虚な笑い声が響く ロボットが未来について静かに語る アフリカの草原が映っている クラシックの指揮者がタクトを振る 宇宙から見た 地球の映像が流れる もう深夜だ いつか自分の存在は水…

百パーセントの愛

百パーセントの愛 それがほしいと願うなら まずは 二十パーセントくらいの愛からはじめてください 二十パーセントの愛 具体的には 観葉植物を買ってそれを愛でる 近所のお爺さんにちょっと挨拶をする それから 五十パーセントくらいの愛を育てましょう 最近…

なんかいいことないかな

もうダメなんだなとおもうたびに まだいけると言ってみる まだ余裕のあった頃は もうダメなんだと言っていた でもいまは言わない ほんとうにもうダメなんだ ぼくの人生は 小学生のときからダメだった だからぼくは 子どもの頃から暗い子どもだった 未来が暗…

なにもいいことなんてないのに

なにもいいことなんてないのに うれしい気持ちになっていることに気がついた そういうときなにかいいことがあった気がして なにがあったのかおもいだそうとする でもなにもおもいだせない たぶんなにもなかったのだとおもう ほんとうは十年くらい前にあった…

普通の感想

同じような詩ばかり書いている たとえば四月の詩と 八月の詩と 十一月の詩の区別がつかない たまには詩を書くのを休もう どうせ誰も読まない詩だ 平日は働いてお金を稼いで 帰ってきたら お風呂に入ろう 夜はぐっすり眠ろう 休日にはパソコンで 映画を見よう…

夕暮れ賛歌

いつも寂しい あなたのいちにちは 記憶の海に溶けていって 他のいちにちと区別がつかない もうかなしまなくていい そう言われているようで あなたはほっと息をついた わたしはひとりでここまで来た これから先も ひとりで行くだろう すこしずつ ダメになって…

独り身

いつからか ひとりでいることは さびしいことではなくなった ぼくはひとりで家に帰り ひとりでごはんを食べて ひとりで寝る そういう毎日には 嘘がいらない 心が弱っているとき いつでも死が身近にかんじられた ぼくは死が 恐ろしいものだと知っている 決し…

オーロラ

冬の 淡い光のなかで すこしずつ色あせていった 目薬をさすとつめたい ぼくは 感情のロボットだった 人生では 自分の意志で やっているつもりのことでも ほんとうは向こうからやってきている 幾千もの 詩が 夜の彼方から やってきた ぼくは布団に入って 死ぬ…

ハーレム

自分のなかの ほんとうの自分が センチメンタルな性格だったのを知った いままで 疑うことなく 自分は詩人だとおもっていた でもそれは ただそんな気がしただけだった ハーレムには やさしい女たちがいて 誰とでも寝てくれた ぼくとも寝てくれた そんなこと…

ミュージック

ぼくはスカートを履いて街に出た いろんなひとが ぼくを見た 脚がきれいだと ひとの視線を集めてしまう 街はガラスでできていた でもぼくはあたたかい肉でできている 命の姿は まるで祈りそのものだった いまから 会いに行く そういうふうにできている ぼく…

ブルーモメント

わたしたちは 夕方の青い空気のなかにいるだろう 自由に手を 広げるだけの スペースが そこにはあったのだ 生ぬるい風が吹いていた コンビニで買ったカフェオレを持って ベンチに座る 弱いけれど やさしいひと 自分の内側だけを見ていた そういう眼をしてい…