ミツオ日記

自称詩人 熊野ミツオの日々

トラウマ

ひとはこわい生き物だった

ぼくはひとの胸に抱かれて

寒い夜を眠ることもあった

その身体から

かすかな匂いがした

朝になると

ひとは洗面所で

歯を磨き

ウガイをする

外から平べったい光が射している

 

ひとの顔に

作り笑いが生まれる瞬間を見ていた

顔がウニウニと硬くなって

盾のようになった

その表情が

性質の悪い獣のように見える

このひとは

誰も傷つけないような顔をして

ぼくを傷つけようとしている

 

ぼくはひとのことをバカにしていた

それを知っているのは

自分だけだとおもっていた

でもある日急にわかった

もうすぐ復讐されることがわかった

 

ひとは

きれいな眼をしていた

銀色のナイフが

暗闇の奥に見えた

ひとの身体から

するどい殺意が放射されて

ぼくを冷たく包み込んだ

皮肉でもなんでもなく

ぼくは刺されて

道端に倒れた

 

そしてその後の人生は

ずっと血を流し続けることになった

冷や汗をかき続けることになった

左のまぶたが

痙攣し続けた

ずっと夜を恐れるようになった