なにもいいことなんてないのに
なにもいいことなんてないのに
うれしい気持ちになっていることに気がついた
そういうときなにかいいことがあった気がして
なにがあったのかおもいだそうとする
でもなにもおもいだせない
たぶんなにもなかったのだとおもう
ほんとうは十年くらい前にあったいいことが
いま届いたのかもしれない
道を歩いていて
意味もなく笑っている自分に気がついた
ふと偶然映り込んだ鏡のなかの自分が
笑っていることもあった
気がつかないうちに撮られた写真の自分が
ひとのよさそうな笑顔を浮かべている
その理由が私にはわからなかった
それなのに年を取っていくにつれて
笑っているような顔つきになってきた
何もおかしいことはないはずなのに
私の人生は
すごくおもしろい
というわけではなかった
それなのに夜中に
自分の笑い声で目が覚めることがある